変わり者の主人公が社会でうまくやっていけずに村から追い出され、家族にも見捨てられ、そして最後にはサヨナラ人類しちゃうお話。興味はありませんか?
日野日出志先生の蔵六の奇病は、自身が生きる世界へ、人間を辞める勢いで旅立っていくお話です。
主人公・蔵六の母親への愛情と、不器用さ。そしてそれらをガン無視する周囲との軋轢(あつれき)は涙を誘います。
概要
あらすじ
舞台は中世日本の農村。主人公は蔵六という名前の青年。
季節は春。蔵六の顔に七色の吹き出物ができ始める。蔵六は変わり者で、農家の次男坊なのに農作業は行わず、絵を描いたり物思いにふけって一日を過ごしていた。
そんな彼には夢があった。それは色を使って好きな小鳥や花、金色のミツバチを描いてみたいというもの。色が欲しい!しかし蔵六には、それがどうやったら手に入るのかわからなかった。
そんな蔵六に村の子供たちは残酷だった。
その日も子供たちは、蔵六を見つけると罵詈雑言を浴びせ、石まで投げつけてきた。
と、そのうちの一つが蔵六のこめかみにクリティカルヒット!頭部からは血が噴き出し、それが全身に化のう。
蔵六の身体はあっという間にボロボロになってしまう。
医者の所見では、家族への感染を防ぐため、近くの森へ隔離するよう言われる。
両親は渋ったものの、兄・太郎の賛意により、蔵六の隔離が決定する。
兄・太郎いわく、自分のところに嫁が来ないのは蔵六のせいらしいよ。
違うよ?太郎の顔と性格に問題があるからだよ。
ロジハラか!?
登場人物
蔵六
とある農家の次男坊。親子仲は良好だが、兄・太郎との仲はイマイチ。働いたら負けだと思っている。
太郎
蔵六の兄。弟へのあたりが強い。一家が村八分にされることを強く危惧している。
母親
蔵六と太郎の母親。作中でもっとも蔵六を愛している人。彼からも強い信頼を受けている。
庄屋
農村の偉い人。村民たちが蔵六へのヘイト一色になる中にあって、比較的まともな御仁。猫が好き。
物語の内容
母親に見捨てられる
蔵六は森の廃屋で暮らすことになる。母親が掃除をしてくれたので、古いけどきれいな建物。母親は蔵六のために、毎日食料や薬を届けに来てくれた。
しかし、梅雨のころになると病状が悪化。全身がブクブクに腫れあがり、カラフルな膿(うみ)を垂れ流すようになった。
それを見た蔵六は思いつく。カラフルな膿を使って絵が描けるんじゃないか、と。さっそく小刀を使って膿を取りだし、それを使って絵を描き始める蔵六。描いて描いて描きまくる。蔵六の夢がかなった。
時は移ろい季節は夏。
血と膿でいっぱいの蔵六屋敷は、すさまじい臭いを放っていた。その悪臭は村にまで及び、蔵六は本人の知らない所でヘイトを稼ぎまくっていた。
そしてそのヘイトは蔵六の家族たちに向けられた。それを敏感に察した兄・太郎は、母親に森へ通うのをやめるよう説得。
その日も母親は、蔵六へ食料を届けるため森へ向かったのだが、太郎の剣幕に押され森へ通うことをあきらめる。そしてその足で庄屋の元へ行き、今後、森へは行かないことを伝える。
と、そのとき。
あたりに妙な臭いが立ち込める。人々が臭いの元を振り返った時、そこにいたのは、蔵六。
人々は一斉に蔵六を罵(ののし)り始め、石を投げつけた。腕をかざして石を避ける蔵六。
しかし、母親が
「森の中にかえれっ」
と叫ぶと、それまでケロっとしていた蔵六は激しく慟哭(どうこく)し、森の中へ走り去っていった。
村の人々から罵声を浴びせられても、実の兄から邪険に扱われても、素知らぬ顔をしていた蔵六。
しかし、母親に見捨てられるということは、彼の心の地雷を踏み抜く行為だった。
人には触れちゃならん急所がある。
そこに触れたら、もう、命のやり取りですよ。
蔵六はその場から逃げて、引きこもっちゃったけど…。
ここでキレて無敵の人になったら、別作品になるからね。
奇病が悪化。そして…
食料を止められた蔵六は、虫や動物の腐肉を食べて何とか生きながらえていた。
ある夜、蔵六は悪夢を見る。村民たちに追いやられ、最後には竹やりで突き殺されてしまう夢。竹やりを突き刺したのは母親だった。
秋風が吹く中、村から秋祭りの笛の音が聞こえてくる。蔵六はその音色を聞きながら、母親の顔や子供のころを思い偲んだ。蔵六の両目は腐って落ちた。
そして冬の季節。蔵六は、もはや耳すら聞こえなくなるが、生きていた。
一方、村では村民たちの間で、蔵六を殺害するか否かが議論されていた。
そして蔵六の実兄・太郎が、殺害することに賛成したことで結審。母親が涙を流す中、村の人間たちは、竹やり片手に蔵六屋敷へと向かう。
が、家の中に蔵六がいない。人々が周囲を探していると、突如、地面がもこもこと動き出し、穴が開いた。
出てきたのは巨大な亀。
亀は両目から赤色の涙を流していた…。
感想:蔵六なら、亀になってもやっていけそう?
割と平和な時が流れていた村と蔵六一家。
ところが、蔵六が七色の膿をゲットして、我が世の春を謳歌すると一変。村は彼を排斥し、一家も村側についてしまう。
当の本人も、好きな色を使って絵を描いているうちはハッピーしていたが、母親に見捨てられたあたりから人生の下り坂に。
食料は尽き、病気はますます悪化。目も耳も聞こえず、寝たきりの状態になったところで、村民たちから命を狙われる。
そして人間を辞めてしまう。
一見、悲劇的だが蔵六は村を追い出されても、”絵が好きなだけ描ける!”と人生の春を謳歌(おうか)したタフネスマン。
あるいは、亀になってからも春を過ごしたのかもしれない。
ラストに悩んでいた日野先生は、ダメもとで蔵六と辞書で引いたところ、なんと発見。
古語で亀って意味らしいね。
亀・エンドって斬新だね。
まとめ
以上、日野日出志先生の蔵六の奇病でした。
主人公・蔵六は農家の息子なのに、農作業を手伝わない困った奴。兄からは邪険にされ、村民からは小バカに扱われ。
一方、両親(特に母親)からは愛されていた。また絵を描く才能があるのか、村民が彼の絵を見て驚くシーンもある。
しかし、そんな才能は農村では屁の役にも立たないわけで。周囲から追い立てられた結果、人間を辞めて亀に変身。
姿を消した蔵六は何処に行ったのか?
どこか、物哀しいお話でした。
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