【地獄変】衝撃のラスト:日野日出志・代表作の結末とは?

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ホラー・サスペンス

 みなさん、身の危険を感じるような恐怖を感じたくはありませんか?

 フィクションだからと安心しているところで、一気に現実へと引き戻される。

 そんな差し迫る恐怖を、日野日出志先生の地獄変は提供してくれます。

面白かったところ
  • 絵師のルーツ(出生など)が日野先生とリンクしているのが興味深い
  • 家族の逸話がどれも秀作ぞろい
  • ラストのオチがグッド
イマイチだったところ
  • 序盤のギャグがビミョー

地獄変って小説でもあるけど、関係あるの?

直接の関係はないよ。地獄の様子を描いた絵画を地獄変相図っていうんだ。

概要

あらすじ

 とある無名絵師が、血の色と美しさに魅入られて大量の地獄絵を描いていた

 一枚目の地獄絵は、夕焼け空にそびえたつギロチン刑場。その下では昼夜を問わず処刑が行われていて、人々の悲鳴が響いている。

 二枚目は、処刑された人々の血が流れて真っ赤に染まった地獄川etc…。

 次々と紹介されていく地獄絵だが、どこかコミカルな絵面。

 しかし、地獄絵のモデルが絵師のルーツ(両親など)に移るとコミカルさが消え、この世の地獄のみが描かれていた…

登場人物

絵師
 本作の主人公。血の色やら匂いやらに強い魅力を感じている。そしてついには、自身の血液を使って地獄絵を描き始める。

子供たちと妻
 絵師の長女&長男、そして妻。子供たちは、近所から動物の死体などを拾って遊んでいる。妻は表通りで居酒屋を経営中。

祖父と父母
 絵師のルーツで、彼の人格形成に強い影響を与えた。祖父は賭け事大好きなDVの鬼。父は祖父を反面教師にするも、結局はDVの悪魔になり果てる。母もやっぱり家庭内暴力がすさまじい。


 絵師の弟。親に暴力を振るわれる兄(絵師)を、いつも助けてくれる唯一の良心。しかし、成人すると祖父や両親に似た、ちょっとヤバいやつになってしまう。

本作のどんでん返しは、マンガ史に残るレベルだよ。

物語の内容

地獄絵

絵師のルーツ

 絵師は家族をモデルにした地獄絵について語り始める

 祖父は賭け事が大好き

 各地の賭場をめぐり、家に帰ってくるのはお盆と正月くらい。賭け事に勝った時は、大量のおもちゃと現金をお土産にして、本人の機嫌もいい。

 しかし、大抵は大負けしての帰宅。

 その時には祖母へ殴る蹴るの暴力を振るった。

 幸い(全く幸いじゃないが)、子供に暴力を振るうことはなかったものの、すさまじいヘイトを買う。

 そして、ある雪の降る夜

 祖父は賭け事のトラブルがきっかけで、命を落とすことになる

 そんな祖父を見て育った父は、このようにはなるまい、と戦前の満州国へと渡る

 そこで資金をためて、養豚場を経営。所帯を持って、子宝にも恵まれる。

 が、そこで日中戦争勃発、そして敗戦。

 日本帰国後は、すっかりやさぐれてしまい、家族に暴力を振るいまくる。

 そして、ある雪の降る夜

 川で溺死しているところを発見される

優しかった母と弟の変貌

 絵師の母は、昔は優しかったという

 大戦直後の満州国で絵師を出産するも、間もなく日本への引きあげが開始。

 季節は闇夜に雪が舞う冬

 飢えと寒さの中、引きあげの行列についていけない高齢者や子供は、家族の手によって絞殺されたり自殺していく。

 雪の降る夜、引きあげ行列は、この世の地獄と化した

 幼かった絵師も周囲から殺害を提案されるも、それに身を挺してかばってくれたのが母だった。

 しかし、そんな母は、引きあげの途中に疲労と恐怖から発狂してしまう。

 そして帰国後は、人が変わったように暴力を振るい始める。両親からの暴力を受ける絵師。

 そんな彼をいつも助けてくれたのが弟だった。

 弟は絵師が描く気味の悪い絵を見ても、褒めてくれたりするいいやつ。

 しかし、成長するにつれ祖父や父に似た暴力的な人間になってしまう。

 そして、ある雪の降る夜

 頭から血を流した半死半生の状態で発見される。

 一命はとりとめたものの、弟はただの肉のかたまりになっていた。

衝撃のラスト:絵師の地獄絵

 子供時代の絵師は、虫や小動物を解体して、それをスケッチして遊ぶヤベェやつ

 両親から受ける暴力も、地獄絵のネタになるので苦ではなかったという。

 しかし、ある時にネタ切れを起こす。

 そこで思いついたのが、地獄の大魔王に事故を起こすようにと、お願いすること。

 すると間もなく、近所に住む不良兄弟の家で火事が起こる。兄弟と家族は亡くなってしまったという。

 それからの絵師は、すきあらば地獄の大魔王にお願いをし、様々な事故を起こしてもらう。列車事故や旅客機の墜落etc…。そして、それらを題材にして様々な地獄絵を描き続けてきた。

 しかし、絵師は満足せず、もっと大きなスケールの地獄絵を描きたいと思うようになる。

 それは、世界中の核兵器のボタンを押させ、本物の大地獄絵を実現させること。

 突然、告白を終えた絵師は斧を持って、家じゅうの人形を壊し始める。

 母の人形、妻と子供たちの人形。

 弟に見立てた豚の死体…。

 絵師は家の外へと飛び出していく。

 時刻は夜。闇夜には雪が舞っていた

 「地獄がやって来る!!その日はいつか!!それはもうすでに決めてある!!そしてみんな死ぬ!!ほくは死なない!!だが……きみは死ぬ!!

感想

 日野先生が、最後の作品にするつもりで描いたというのが今作・地獄変

 一言で言い表せば、この世は地獄、といった感じでしょうか?

 序盤の地獄絵は、ギロチンやら血で真っ赤に染まった川やら、まさに地獄々々した感じ。

 しかし、ギロチンがおろされるたびに花火が打ちあがり、子供たちはそれを見て喜んでいる。

 首を切られた亡者たちは、よなよな居酒屋の暖簾(のれん)をくぐり、酒宴を開いている。

 地獄々々した絵なのに、コミカルな内容。

 ところが、家族の地獄絵になると一変

 祖父はDVを繰り返したあげく、全身血まみれになって殺害される。

 父母は満州引きあげの際に、家族が家族を次々と殺害していくという生き地獄を体験。それ以降、父母は性格が変わり、DVの鬼になる。

 地獄なんて生ぬるいような地獄こそが、この世なのかというところ

 気づくと、舞台が地獄から現世に移っているのに驚く。

 そしてラストには、願ったことを現実化できるという絵師が、現世に本物の大地獄絵を実現させるとか言って脅(おど)してくる。

 読み始めた時には、こんな結末になるとはだれが予想できたでしょうか(いや、できない)。

 フィクションのお話が、気づけば現実のお話に…。

 日野先生の技の妙ですね。 

前作・地獄の子守唄では母親が狂人として登場するのだけれど、発刊後に現実のお母さんに呼び出されて𠮟られたらしいよ

まとめ

 以上、日野日出志先生の地獄変を紹介しました

 フィクションだと思って読み進めていると、次第に現実世界の話題になっていて、ラストでは呪詛まで投げかけられます。

 どこからどこまでがフィクションで、どこからが現実なのか?

 あの呪詛はどちらに向けたものなのか?

 間違いなく日野先生の傑作マンガでした

日野先生が最後の作品にするつもりで描いたという気合の入った一作だよ。



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