自分の容姿にコンプレックスを抱く少女が、そのうっぷんを周囲に発散させた結果、容姿だけでなく心までが醜(みにく)くなり悲惨な結末を迎える…。
楳図かずお先生の赤ん坊少女は、まさにそんなお話。
タマミは自分の醜い容姿にコンプレックスを抱いていた。
それでも、母親からは愛情を注がれて育ち、幸せな日々を過ごしていた。
ところがある日、美しい容姿を持つ妹ができ、タマミのコンプレックスを暴走させる。
妹に対し、激しいいじめを行うも、待ち受けていたのは悲劇的な結末だった…。
タマミは12才になっても赤ん坊の姿をした女の子だよ。
父親がとてもゲスイんだ!
概要
あらすじ
主人公・葉子は生まれた直後に両親と生き別れて、辛い日々を過ごしてきた。
が、両親の捜索もあって、12年ぶりに親子が再会。葉子は両親の家で同居することになる。
優しそうな両親に、ばあや。
「やっとしあわせになれるのだわ…」
ところが、ある夜。葉子のもとに謎の赤ん坊が現れる。
それを見てうろたえる父親。
「そっそれは、タマミ。わたしがよその施設へやったはずの子」
「生まれたままで、ちっとも大きくならないのだ」
見た目は赤ん坊だが、実は12才で葉子の姉なのだという。葉子と家族は怒り心頭な父親をなだめ、これからはタマミも同居することになる。
しかし、父親の様子がおかしい。
「恐ろしい…。いつまでもこのままにはしておけん。いつか必ず…」
登場人物
葉子
今作の主人公。両親と生き別れて苦労してきた。美しい容姿の持ち主だが、それが原因でタマミからいじめを受ける。
タマミ
今作の悪役で、葉子の姉。見た目は赤ん坊だが、12才の女の子で普通にしゃべれる。アグレッシブな性格。
父親
葉子とタマミの父親。タマミのことを憎んでいるゲス男。タマミが施設から帰って来るなり、彼女の生命を狙うようになる。今作で一番残酷なのはタマミではなく、この父親。
高也
ばあやの孫で、今作の王子さま。そしてゲス男。一見さわやかイケメンだが、タマミに対しては想像を絶するほどの毒舌。
タマミはどうして葉子に嫌がらせをするの?
彼女は自分の容姿にコンプレックスを持っているんだ。
だから美しく成長した葉子に嫉妬心を燃やしているんだよ。
物語の内容
タマミVS父親
葉子はタマミの面倒を見るようになる。
が、憔悴(しょうすい)していた。
タマミがスキあらば泣きだすので勉強ができず、眠ることもできない。
そしてある日、葉子は階段から転げ落ちてしまう。階段には大量のビー玉が置かれていた。
父親が心配して駆けつけてくれる。と、別室からタマミの笑い声が聞こえてきた。
「はははははは、ふふふふ」
それを聞いた父親がブチギレる。
「くそっあいつ。あざわらっているなっ、もうがまんならんっ」
そう言って足早に姿を消す父親。
しばらくすると、大きな箱を持って帰ってくる。
そして、その箱をゴミ捨て場に捨てた。
や、やりやがった!
父親の失踪
翌日、タマミが家からいなくなっていた。
葉子は捨てた箱の中身が気になりつつも、穏やかな日々を過ごす。
が、数日後にタマミが帰ってくる。
そして今度は父親が家からいなくなってしまう。
以降、タマミは主人ヅラし、葉子に対して様々ないじめを行うようになる。葉子は、そのいじめを耐え忍んでいく。
が、ばあやの方が先にキレる。
「タマミさまは悪魔です。かたちだけではなく、心まで恐ろしい悪魔です」とまで言い放つ。
そして、ばあやの孫・高也が屋敷にやって来る。
タマミは周囲からヘイトを買いすぎだよ。
美しさは暴力
高也はさわやかイケメンの高校生。
タマミと初めて出会うや、彼女を抱きかかえて
「とてもかわいいですね」と、さわやかな対応を見せる。
が、タマミがいなくなるや
「ずいぶん、うす気味の悪い赤ちゃんだね。抱いてるのがやっとだったよ」などと抜かす。
そして行方不明になった父親の捜索を開始。
一方、タマミは葉子を地下室へと呼び出し、そこで西洋甲冑(かっちゅう)を見せてくる。
「ごらん。おとうさまはこの中よ!」
そう言うとタマミは巨大なノコギリを持ち出した。
「ずいぶん、私のことをいじめたわね」
「おまえがくるまではみじめだったけどしあわせだった。それがおまえがきてからというもの、おまえの姿を見せつけられて、どんなつらい思いをしたか」
「こんな気持ち、おまえなんかにわかるもんか」
タマミはノコギリをかまえた。
葉子が来るまでは、母親と平和に暮らしてたんだよね。
葉子が来たせいで、コンプレックスは刺激されるわ、父親から目の敵にされるわで大変だったんだ。
あと高也の、掌(てのひら)返しがひどい。
「タマミは悪い子でした」
その時、高也が現れる。
「タマミ、この目ではっきりきみの本性を見たぞ」
「きみは心まで醜いのか、それじゃきらわれてもしかたがないっ、ぼくは大きらいだ」
追い詰められたタマミは葉子を盾にして屋外へと逃げる。そして笑い声をあげた。
「もうおしまいだわ」
そう言って取り出したのは、硫酸(りゅうさん)の入ったビン。これで葉子を殺害した後、自分も死ぬのだという。
そして硫酸を葉子にかけようと、ビンを高くかかげた。
その時、高也が持っていたロープがビンに当たって破損。ビンの中身がタマミに注ぎ落ちた。
硫酸を全身に浴び、ボロボロの身体になったタマミ。
駆けつけた母親が心配そうに彼女を抱くと、タマミは最期の言葉を口にする。
「タマミは悪い子でした」
タマミが救われない…。
実写映画化もされた
今作は2008年に実写映画化されています。
監督・山口雄大さん、葉子役には水沢奈子さんが起用。
ほかにも野口五郎さんや浅野温子さん、斎藤工さんが出演するなど、なかなか豪勢なメンツ。
内容は原作をもとにしつつ、大幅な改変が加えられています。
ちなみにR-15指定。
感想:怪物を演じきったタマミの結末
タマミは作中で二つの顔を見せます。
一つは怪物の顔。
葉子に嫌がらせを繰り返し、父親や医師を殺害しようとする悪役としての顔。
二つ目は純真可憐な女の子としての顔。
作中で彼女は何度も涙を流しています。おしゃれなドレスをまとい、化粧をほどこすも鏡に映った醜い自分の容姿を見た時。
「とてもかわいい」と言ってくれた高也が、自分のいない所では、醜い容姿を蔑(さげす)んでいた時。
最終盤で彼女が母親に言った懺悔(ざんげ)を聞くに、純真可憐な女の子というのが正体なのかもしれません。
一方、自分の容姿が原因で涙を流した後、彼女は決まって悪事を加速させます。
可愛い女の子になろうとしても、周囲の人間は「醜い醜い」と彼女に繰り返し言ってくる。
”だったら、醜い容姿にあった振る舞いをしてやろうじゃない!”
なんていう彼女なりの意地があったのかもしれません。
そしてその結末は、これまでのツケを支払うというもの。
母親の庇護下で、ひっそりと暮らしていた時には人畜無害だったことを思うと、なんとも不憫な気持ちになります。
まとめ:怪物なだけじゃない、可憐な正体が魅力の敵役
以上、楳図かずお先生の赤ん坊少女でした。
両親と生き別れた葉子が実家に引き取られ、赤ん坊の姿をした姉・タマミと出会う。タマミはあの手この手で、美しい容姿をした葉子をいじめてくる。
しかし、容姿にコンプレックスを持つタマミも、周囲から醜いと蔑まれて傷ついていた。
楳図先生いわく
「お化けの立場にたって物語を見ていった最初の作品」
暴力的怪物なだけじゃないタマミが、魅力的な作品でした。
単行本は「赤んぼ少女」と「赤んぼう少女」があるね。
何度か改題しているんだ。ほかにも「のろいの館」っていうタイトルでも出しているよ。
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