戦争でも、美学を持って戦いたい。しかし、その美学が原因で、市民を死なせてしまう。
そのとき、主人公が取った行動は?そんなお話、松本零士先生の、ベルリンの黒騎士。
エースパイロットのリヒター大尉は、落ちると決まった航空機に追撃はしない、という美学の持ち主。
しかし、それが原因で市民を死なせてしまう。
「昔のベルリンの黒騎士は死んだ…」
リヒターは、再び戦闘機に乗り込む!
- リヒターがカッコいい!
- サンダースの人間味も良し
- ドイツ空軍が強すぎ?
概要
あらすじ
ドイツのエースパイロット・リヒター大尉は、騎士道を重んじる戦いぶりから、ベルリンの黒騎士と呼ばれていた。
その日も、戦闘機隊を率いて、連合軍の爆撃機隊を襲撃。
リヒターはダメージを受けたB-17に横付けし、機内の様子を見る。と、中では乗員たちが脱出の準備を急いでいた。それを確認したリヒターは、とどめを刺さずに、そのまま離脱。
瞬間、B-17の銃手が、リヒターに機銃掃射を行う。被弾したリヒターに連合軍のP-51が追撃をかける。
リヒター機は撃墜されてしまった。
登場人物
リヒター
ドイツ軍のエースパイロット。別名・ベルリンの黒騎士。騎士道を持って戦いにのぞむ。しかし、それが原因で、自身の左目と市民の命を失ってしまう。
マルガレーテ
ドイツで暮らす牧場の娘。炎上する機体から、リヒターを救出するガッツある女性。機体の爆発からリヒターをかばい、亡くなる。
サンダース
連合軍機・B-17の銃手。自分たちを見逃してくれたリヒターに、機銃掃射をかましたお調子者。名前が、でんきタイプ。
物語の内容

市民と黒騎士の死
暗闇のなか、目を覚ますリヒター。そこは薄暗い建物のなかだった。
医師の話によると、牧場の娘・マルガレーテが炎上する機体から、リヒターを救い出してくれたらしい。マルガレーテは爆発からリヒターをかばい、亡くなったという。
リヒターは彼女の遺体を見に行く。若い女性だった。自分の騎士道を守るために彼女を死なせてしまった。さらに、自分の左目も失明していることに気づく。
じっ、と彼女を見つめるリヒター。
「この人といっしょに…おれの左目も…」
「いままでのベルリンの黒騎士も死んだのだ…」

マルガレーテの、ガッツがスゴイ。
生まれかわったベルリンの黒騎士
1945年4月30日。
連合軍の大編隊がベルリン上空に侵入。首都防衛をかけた空戦が幕を開ける。
先制したのは、リヒター率いるジェット戦闘機隊。連合軍の航空機隊に掃射をかける。
そしてリヒターは、以前に自分を撃墜したP-51を見つけると、これを叩き落とす。
次いで、くだんのB-17を見つける。B-17は既に被弾していて、ボロボロの状態。
リヒターはそっと後方に回り、照準器を覗いた。
「おまえたちに教えられたのだ!!」
「生まれかわったベルリンの黒騎士は…。血も涙もない悪魔の黒騎士だ!!空の死神だ!!」
リヒターは発射桿をにぎった。

サンダースー!!
登場する機体
フォッケウルフ Fw190D
ドイツ空軍の主力戦闘機。
A型は高高度性能に難があったため、改良をほどこしたのが本機・D型。
性能は優秀だったが、実戦投入されたのが遅く、パイロットの練度不足が、足を引っ張ってしまう。戦局を挽回するにはいたらなかった。
その見た目から”長鼻”という、あだ名が付けられている。
メッサーシュミット Me262A
ドイツ空軍のジェット戦闘機。
ほかのレシプロ機が時速600km~700kmというなか、時速870kmという圧倒的な速さをほこる。
また20mm機関銃で重火力といわれるなか、30mm機関銃を搭載していたりと、ロマンの塊になっている。
しかし、加速性能・旋回性能がかんばしくなく、離着陸にも難がある。
WW2末期には”ボクが考えた最強の航空部隊”こと、第44戦闘団でも活躍した。

第44戦闘団のパイロットは、大半が騎士鉄十字章を所持していたよ。

す、すげぇ…。
ノースアメリカン P-51
アメリカ陸軍の戦闘機。
優秀な高高度性能と航続性能を持つ。おまけに生産コストが安い。このことから”最高のレシプロ戦闘機”と呼ばれている。
一方で、加速が遅く、旋回性能もいまひとつ。”最高”であって、”最強”でないのがミソ。
現在でも、エアレースに出場していたりする。
ボーイング B-17G
アメリカ陸軍の主力爆撃機。
G型は機銃が追加配備され、爆撃任務のほか、輸送・偵察・救難と、さまざまな仕事をこなした。
”フライングフォートレス”の愛称通り防御力が高く、20mm機関銃では撃墜するのが容易でなかった。
欧州では終戦まで活躍する。
一方、太平洋では航続距離の短さから、爆撃任務を順次退役。後継のB-29に仕事をゆずる。
感想
リヒターが甘っちょろいけど、かっこよかった。
落ちると決まった航空機には追撃をしない。という姿勢は連合国の軍人からも評価されていて、B-17の乗員も”リヒターなら大丈夫”と信頼している。
ところが、その姿勢を利用されて撃墜されたうえ、マルガレーテを死なせると一変。自分の命をささげる、といって騎士道をかなぐり捨てて戦っていく。
闇落ちした、…わけではなく。すべての戦闘が終わるや、空高く上昇していき、やがて姿を消してしまう。
死神になりきることも、騎士道を完全に捨てることもできなかったリヒター。
彼の落としどころがこれなのかと思うと、ものかなしい気持ちになりますね。

死ぬ必要ないじゃない…。
まとめ
以上、松本零士先生のベルリンの黒騎士でした。
騎士道を持って戦場にのぞむリヒター。しかし、その騎士道が原因でマルガレーテを死なせると、空の死神を自称して戦場に出る。
それでも、心の奥底には、彼の騎士道があって…。
過酷な戦場にあっても、美学を持ち続ける、情熱的なお話でした。
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