悲哀の物語に興味はありませんか?
楳図かずお先生の影姫(鬼姫)以上の悲哀物語は、そうそうありませんですわよ。
両親と暮らす村娘・シノはお城に連れていかれ、領主・鬼姫の影武者(=影姫)に採用されます。
英才教育を受けたシノはついに社交界デビューする。しかし、余興と称し目の前で両親を殺害されると、鬼姫への復讐を決意。
復讐を終えたころにはすっかり鬼と化していたシノ。そこへかつての恋人が現れて…。
家族を救うため鬼になるも、彼らを救えず。かといって、元の村娘に戻ることもできない。シノが選んだ選択や如何に?
おすすめ度 | |
主人公の悲哀 | |
無慈悲っぷり | |
ラストの救い |
ただの村娘が鬼へと変貌
時代は戦国時代。
主人公・シノは農家の娘っ子。両親と祖母の四人暮らしだが、食うにも困る窮状(きゅうじょう)だった。
そんなある日、男二人が家に押しかけてき、「金貨10枚で娘を売ってほしい。」と、持ち掛けてくる。
シノは渋る両親をよそに「それで家族が救われるなら。」と、了承。男に連れ去られてしまう。
そして到着したのは領主・鬼姫の居城。
シノは鬼姫の影武者=影姫として生活することになる。
お城では窓のない部屋に閉じ込められ、女官・藤つぼから影武者になるためのスパルタ教育を受ける。シノは心が折れそうになるたびに、「これも家族のためなのだ…。」と言い聞かせて耐え忍んでいく。
そしてついに鬼姫そっくりな立ち居振る舞いを身につけ、影姫として、社交界デビューを果たす。内容は城主代行との月見の宴会。
と・こ・ろ・が、宴会当日、城主代行が余興と称して公開処刑を行うとか言ってくる。処刑されるのは近くの農村に暮らす農民夫婦。夫婦は布で顔を隠されている。
シノは嫌な予感を感じつつも「残酷な性格を持つ鬼姫なら、面白がってみるはず…。」と考え、そのまま処刑を見物。
竹やりを突き刺され、絶命する農民夫婦。そして最後に顔を隠していた布をはぎ取る。と、そこにあったのは両親。シノの両親。
城主代行は新しい影武者が雇われたと聞き、わざわざその両親を見つけ出し、目の前で殺害したのだった。
これにはシノ、ブチギレ。鬼姫としてふるまい、城主代行に切腹を命じて殺害。それでも怒りが収まらないシノは、そもそもの原因である鬼姫への復讐を決意。
シノは鬼姫を謀略にハメて大ケガを負わせ、さらに地下牢へ閉じ込めてしまう。鬼姫は根性で脱獄するものの、それを目撃したシノは短刀でもって鬼姫を突き刺して殺害。一連の不幸に対する意趣返しを完遂する。
以降、シノは影姫から鬼姫として表舞台に立つ。が、その表情は常に冷笑を浮かべ、残酷なさまが滲み出ていた…。
英才教育のせいで鬼姫よりも鬼姫っぽくなっちゃったね。
鬼姫はカンシャク持ちの美少女ってだけで、殺人とかはしてないよ。
美少女ってとこ必要か…?
大切なことだよ。
以前の娘には戻れぬ悲哀
城主になった影姫(っていうかシノ)は、「良い政治を行おう」と考え、年貢を減らすなど、領民から一定の支持を得るようになる。
が、ある日、「そうだ、自分は領主なんだから、村から自分の元カレを呼び出してもいいじゃない。」と思いつき、部下に元カレ・清作を拉致してくるよう命じる。
そして元カレと久しぶりに二人っきりで出会う。清作は以前と変わらぬさわやか系イケメン。
ところが、清作の方は影姫=シノだと気づかない。自分がシノだとネタバラシしても、「目も顔もすべてが違う」とか言ってくる。
あまりのショックにその場で泣き伏してしまう影姫。
…しかし、再び顔を上げたその表情には、いつもの冷笑が浮かんでいた。
「清作は自分の許嫁として一生お城で暮らすように。村には返さない!」
その後は、表舞台では鬼姫として清作につらく当たり(軽く拷問かますなど)、裏舞台では「どうして私がシノだとわかってくれないのですか!?」と泣き脅すも、清作には全く響かない。全然信じてもらえない。
そうこうしているうちに影姫はケガが原因で半失明状態になってしまう。それを危惧した女官・藤つぼが新しい影武者を探し出してくるのだが、なんとそれが清作の今カノだった。
家族を失い、視力を失い、そしていま恋人も失ってしまった影姫は絶望の淵(ふち)に立たされてしまう。
そんな中、隣領主が鬼姫領に侵攻を開始。あっという間に攻め込まれ。お城は猛火に包まれてしまう。
燃え盛る天守閣。影姫はもはや逃げようがないことを悟る。
「今、自分に残された、すべきことは…。」
炎と煙の中、影姫は歩を進めていく…。
復讐を終えたあたりから、キレッキレの悪女になってるよね。
両親の敵討ちとはいえ、ヒト二人をコ〇したんだもの。オニかアクマにでもなっちゃうよ。
感想:鬼は無慈悲を無慈悲と思わない
「鬼がこわいのは、鬼自身が人に与える無慈悲な害を、無慈悲とは感じない所にある。」
と、楳図先生は語っている。
今作では三人の鬼が登場しています。
一人目はもちろん領主・鬼姫。
村娘・シノを影武者としてお城に連れて来るや、「自分の名前をかたる罰」と称して、シノの腕をへし折る。
シノが影姫として表舞台に立つようになると「生意気だ」と言って拷問にかけ、しまいには再起不能レベルのケガを負わせようとするなど無慈悲なカンシャク持ち・プリンセス。
二人目は女官・藤つぼ。
口を開けば、「お城のため」と繰り返す御仁。「お城」なのがポイントで、城主代行が影姫に切腹を命じられてもスルー。
主君・鬼姫が大ケガを負うと、「お城安泰(あんたい)のため」と言って、主(あるじ)を縄で縛って地下牢にぶち込むなど、慈悲も忠心もない輩(やから)になっている。
そして三人目は影姫ことシノ。
物語の主題にもなっている悲哀の人物。もともとはただの村娘で、両親と暮らす純真無垢な少女だった。
が、お城へ連れていかれると一変。藤つぼのスパルタ教育により、冷酷な鬼へと変貌。復讐のためとはいえ、その無慈悲っぷりをいかんなく発揮。
復讐を終えたころには、かつての恋人が本人だとわからないくらいに変わってしまい、当の本人も表の顔と裏の顔がごっちゃになってしまっている。
そして最後の最後になって慈悲の心を見せる。と、いうのが彼女の悲哀を一層引き立てている。
両親を殺害した城主代行も結構な鬼畜だよね。
あのお城にはオニしかいないのかな?
オニ…美少女…。うっ、頭が!
どうしたお前?
まとめ
以上、楳図かずお先生の影姫(鬼姫)でした。
無垢な少女がスパルタ教育と復讐心により鬼姫をしのぐオニになる。
そして無事、復讐完了。
しかし、以前の少女には戻れず、しまいには家族も恋人もすべてを失い、ついでに自身の生命の危殆(きたい)に瀕する。
それでも彼女の心の奥底には、ひとかけの慈愛が残っていて…。
悲哀物語として抜群のストーリーを誇る作品だと思います。
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