心の持ちようが外面に現れた時、人はそれを異形と呼ぶ。そんな物語に興味はありませんか?
楳図かずお先生の半魚人は、海面上昇により地球が水没することを、恐れた主人公の兄が半魚人化。
そして兄は「人類を救うため」と称して、他人に半魚人化手術を行うという、クソ迷惑な行動に出る。
その行為は実の弟にも及ぼうとしていた…。
今日は、人間を使って半魚人を作るよ。
えぇ…。
マジやぞ。
概要
あらすじ
今作の主人公・次郎。
ある日、兄から妙な相談をされる「このごろへんなんだ」と言って見せてきたのは、ギザギザにとがった自分の歯。まるで魚のような…。本人も気にしているのか、ほかの人には言わないよう口止めしてくる。
しかし、歯は日に日にとがっていき、ショックを受けた兄は引きこもり状態になってしまう。
そしてある雨の日、兄は「水…。」と言って車で外出。しばらくして帰ってくるのだが、口からは血を滴(したた)らせ、頭にはワカメを乗せている。おまけに次郎を見るなり、ぶん殴ってくる。性格が変わってしまった?
さらに日が経つと、目が魚のようなギョロ目になり、体にはウロコまで生えてくる。
さすがにアカンと思った次郎は、車で出かける兄をこっそり尾行。到着したのは海。兄は服を脱ぎ捨て、すっかり半魚人と化してしまった体で海にダイブ。そのまま泳ぎ回り、魚を捕まえて食べていた。
戦々恐々の様(さま)で帰宅する次郎。兄も帰ってくるが「話したいことがある」と呼び出しを喰らってしまう。
「ゆうべはとんでもないところを見たな。殺してしまうつもりだったがとてもできなかった…。おれたちはこれでおわかれだ。次郎おれのことは忘れてくれっ」
兄はそう言って弟の前から姿を消してしまった。
半魚人化して、一番苦しんだのは兄さんだね。
最後の理性で、弟から距離を取ったんだ。
に、兄さん…。
登場人物
次郎
主人公の少年。次郎という名前だが、上着に「2」とは書いていない。好奇心は猫をも殺す、を地で行く性格。なお、死んだのは自分以外の模様。兄に似たイケメン、食べちゃいたい。
兄
次郎の兄。運送会社で働いている。弟からも慕われるイイ男だが、初登場時点でなんかおかしい。半魚人と化した後も、彼なりの正義感で動いているが迷惑でしかない。
健一
次郎の友人。彼からも慕われるイケメン。次郎兄弟の問題に立ち入ったがために、人生を棒に振ることになる。
物語の内容
半魚人化した理由とは…
次郎は海辺に座り、兄のことを考えていた。
と、イケメン友人・健一が心配して声をかけてくる。兄のことを聞いた健一は、父親が半魚人について研究しているので紹介するという。
次郎は健一の自宅へ行き、彼の父親から話を聞く。
いわく、温暖化により地球は海ばかりの星になってしまう。それを本能的に察した一部の人間は、生き残るために魚になろうとしている。…らしい。
父親は資料を取りに部屋を出る。と間もなく、父親の悲鳴がこだまする。
次郎と健一が急いで駆けつけると、父親は普通に突っ立っていた。
しかし、様子がおかしい。すぐ横には青い血とウロコが落ちている。
怪しいってレベルじゃねーぞ!
次郎は一度帰宅するものの、間もなく健一が行方不明になってしまう。どう考えても父親が怪しい。
次郎は健一の家に忍び込む。
と、健一は水の入った巨大な水槽に閉じ込められていた。
「水中に長時間いる訓練をするのだ。」
そこにいたのは、兄だった。
が、兄の様子がこれまたおかしい。
「わしは健一の父おやだ。」
おれは半魚人になったと思ったら父性に目覚めていた。
な、何を言ってるのかわからねーと思うが、おれも何があったのかわからなかった。
…?
半魚人を作ってみた!
兄は書類を手に取り、地球が温暖化により水没してしまうことを説く。
「さかなにならなければみんな死んでしまう。健一を半魚人にしてたすけるのじゃ。」
そう言うと、持っていた小刀で健一の口を大きく切り裂く。さらに瞼(まぶた)を切り取り、次は指を裂いて水かきを作り出した。
「だいぶ半魚人らしくなった。あともうすこしだぞ。」
そう言って、兄はいったん部屋を出る。
次郎はそのスキに健一を拘束から説くのだが、様子がおかしい。
健一は「水…。」といつかの兄のようなことを口走り、次郎のことを全く分かっていない。
と、兄の気配を感じた次郎は、健一を別室に避難させる。入れ違いで部屋に入ってくる兄。
そして次郎を見るや、
「ややっ、もとどおりになっている。もう一回手術のやりなおしだ。」
そう言って、小刀を弟の口に向ける兄。
「もうだめだっ」
次郎が観念したその時、別室のドアが開いた。
そこにいたのは半魚人。
ウロコと背びれを生やした健一の姿だった。
人間で半魚人を作れ。
出来らぁっ!
本当に出来てどうすんねん!?
感想:見た目が変われば中身も変わる?
日に日に体と心が半魚人化していく兄。人の心がまだ残っているうちに、別れの言葉を残して弟の前から姿を消す。
そして次に現れた時には、何故かクラスメートの父親を自称し、改造手術を施していた。
いやあ、登場人物二人が徐々に半魚人化していく様(さま)は、なかなか怖いものがありますね。
そして地味に怖いのが、外面が異形化していくのと同時に、内面も怪物化していくこと。
いや、そもそもは「地球が水没しちゃう、魚にならなくちゃ!」というのが、きっかけだから内面→外面でしょうか?
どちらにせよ、片方がもう片方に著(いちじる)しい影響を与えてしまう。それはもう異形なわけで。
まとめ
以上、楳図かずお先生の半魚人でした。
物語は、次郎が兄から奇妙な相談を受けるところから始まる。
兄は鋭い歯が魚のように変化しており、その変化は日に日に進行。ついに兄は半魚人となり、次郎の元から出奔(しゅっぽん)。
兄は再び姿を現したとき、なぜか健一の父親を自称している。そして息子を助けるために、半魚人に改造するという。
内面(あるいは外面)が、もう一方に影響を与えて…。
という、楳図先生らしい作品でした。
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