【水の中の楽園】後味が悪い:日野日出志の不気味な物語

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水の中の楽園 日野日出志 ホラー・サスペンス

 日野日出志先生の作品の中でも、不気味さと後味の悪さが印象なのが、水の中の楽園

 主人公・ケン一(いち)の孤独と空想。

 そして彼を取り巻く家庭環境の厳しさが、読む人の心に影を落とします。

面白かったところ
  • 息子が家族から孤立気味なのが、物語に味を与えている
  • 唐突に入る空想が、子供の心理を表していて興味深い
イマイチだったところ
  • 初期作品なので、絵面が日野先生っぽくない

怪奇なお話だよ。

概要

エンゼルフィッシュ

あらすじ

 空想好きな少年・ケン一にとって、熱帯魚が泳ぐ水槽の中は、まさに平和な水の中の楽園だった

 一日中、水槽を眺めて過ごしている。ママに夕飯ができたと言われれば、食事をかきこみ、またさっさと熱帯魚たちの元へ戻っていく。

 ママは熱帯魚ばかりに熱中するケン一に、強い不満を持っていた…

登場人物

ケン一(いち)
 空想好きな小学一年生。熱帯魚大好きで、日がな一日、水槽を眺めて空想に思いをはせる。勉強が苦手で、1+1=3と答える強者

ママ
 ケン一の母親。息子が熱帯魚にかまけて、勉強ができないことを恥ずかしく思っている。勉強をさせるためなら体罰もいとわないが、実を結ぶ気配はない。

パパ
 ケン一の父親。勉強は大事だと思っているが、ママほどにはうるさくない。子供には夢を見れる場所が必要で、それがケン一にとっての熱帯魚だと考えている。ただし、嫁には勝てない

物語の内容

カクレクマノミ

熱帯魚と空想が好きなケン一

 学校が終わると走って帰るケン一。向かった先は熱帯魚店

 ケン一は飾られている水槽に顔を近づける。

 ひらひらと泳ぐエンゼルフィッシュ、キスをするキッシンググラミー。

 それらを見て、空想を巡らせるケン一。

 夕方の五時

 ようやく帰宅するケン一だが、自宅で待ち受けていたのはママのお説教。

 テストの点数が悪かったこと。成績が悪くて恥ずかしいということなど、延々と続くお説教。

 しかし、ケン一はお説教を聞き流し、空想の中で熱帯魚たちと遊んでいる。

 さすがに怒ったママは、ケン一をひっぱたき、真っ暗な押し入れの中に閉じ込めてしまった

少し不気味な楽園の夢

 寝落ちしたケン一は夢を見た

 それはいじわるな魚から、スーパーマンになった自分が、熱帯魚たちを助けるというもの。

 熱帯魚たちが言う

 「ケン一さん!!我々の国へ来て住みませんか?

 「そして我々の国の王様になって下さい

 ケン一は、目を輝かせて返事する

 「うん!僕…

 「この世界の王様になるよ!王様に…

 それを聞き、万歳三唱する熱帯魚たち。

 突如、上方から巨大な手が現れ、ケン一をつかみ上げる。

 「苦しい…

 「助け…て…

 目が覚めるケン一

 目の前にいたのはパパだった。夕飯の時間だという。

 顔を洗いに、洗面所へ行くケン一。

 パパは、熱帯魚を飼う事ぐらい許してやってもいいんじゃないかな、とママに提案してくれる。

 …と、ケン一がいない。

 部屋に行ってみるも、明かりはついているが、水槽の前にはだれもいない。

 「変だな…」

 そう言って、部屋を出ていくパパ。

 その背中を見送る視線があった。それは水槽の中から。

 視線の主は、ケン一だった…

【水の中】との違い

 本作は【水の中】のプロトタイプ(原型、試作品)

 ストーリーは似たところが多いが、一番の違いは少年(水の中・主人公)と母親

 【水の中】の主人公・少年は熱帯魚好きなのは共通しているが、交通事故で両手両足と片目を失っていて、母親の介護なしには生きていけない。

 そして母親のことが大好き。

 一方の母親は序盤こそ優しく、少年の介護をかいがいしく行(おこな)ってくれる。

 ところが、中盤に入ると一変。

 少年に日常的に暴力を振るうなど、えらいことになる。

 信頼していた人が、掌(てのひら)返してくるというのは、なかなかキツイ。

 日野先生は、【水の中の楽園】にいわく

 「怪奇と叙情の方向性は決まっていたものの~(略)。思い付きのアイデアだけで描いていたので、人間の内面に迫る内容には程遠い。」

 ケン一も現実と空想の間で苦労しているのだが、少年の苦労はその比ではない。

 また物語のオチは、ケン一はひとりで楽園に行ってしまい、少年は大好きな母親と二人で楽園に行くというもの。

 似たようなラストではあるが、意味合いは結構違っているかもしれない

水の中はすごみがあるよね。

感想:後味の悪いラスト

 現実世界では勉強だなんだと言われ、両親も追い立てる側にいる

 ケン一が心安らげるのは、熱帯魚の水槽を見ている時だけ。

 読み進めて思ったのは、ケン一がとにかく孤独なこと

 学校の友達は存在せず、言葉を交わすのは両親だけ。

 パパとはお駄弁(だべ)りもするけど、半分は勉強しろという小言(こごと)。ママに至っては100%お説教な上、ひっぱたいてくる。

 そんな状態で、目の前に楽園があったら行っちゃうよね。

 でも、親同士の会話を見ると、親なりに子供を思ってはいる。

 パパも子供には夢見る場所が必要だと言って、熱帯魚を飼えるよう、ママを説得している。

 なのに、ケン一はいなくなっちゃう。

 ケン一にとっては、自分がいない所での会話なんて知らん、かもだけど…。

 最終盤、家の中で息子を探しているパパの背中が少し悲しく、後ろ髪をひかれた

まとめ

以上、日野日出志先生の水の中の楽園でした

ケン一は空想を愛し、水槽の世界に楽園を見出します。

しかし両親は、そんな彼をあまり理解せず、むしろ追い立てていきます。

だんだん孤独になっていくケン一。

ある日、ケン一は押し入れに閉じ込められた際、熱帯魚たちの王様になる夢を見る。

そしてケン一は、ひとり、水の中の楽園に行ってしまう。

少しの不気味さと、後味の悪さが残る作品でした



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