平和な日常が突如崩壊する。身内のせいで。気になりませんか?
楳図かずお先生の凍原<ツンドラ>は、そんなサスペンスなお話。
主人公・妻は家族とともに平和な日常を過ごしてきました。
ところがある日、自宅に悪漢(あっかん)が押し入り、平和な日常にひびが入ります。
幸い、妻はたくましく、悪漢を撃退して自宅から追い出します。そこで妻は思います。
「あれ、今の夫じゃね?」
果たして平和な日常は戻ってくるのでしょうか?
おだやかな日々
今作の主人公・妻は夫と息子の三人暮らし。夫はやたらガタイが良いが、性格はまじめでおとなしい。息子は東京の大学に通っている。妻いわく
「わたしの今までの歩んだ道は平凡で、おだやかな毎日だった。」
この日も出勤する夫を見送った後は、趣味の編み物をしていた。
「これからもおなじ毎日が続くことでしょう。」
編み物が好きなのは毎日の生活と、糸目の一つ一つが似ているかららしいよ。
編み物にシンパシーを感じてるんだね。
でもね、人生って何があるかわからないんだよ。
崩れ去る平凡
日が沈んだころ、「リーン、リリーン」と玄関のベルがクセのある鳴り方をする。妻はいつも通りの夫の鳴らし方だと言って、玄関へお出迎え。
が、そこにいたのは目出し帽をかぶった大男。そしてそのまま家の中に上がり込んで来るや、妻はダッシュで電話台へ駆け寄り110番をダイヤル。
「あっ!!」
それを見た大男は電話をはたき落とし、妻の腕をわしづかみにする。妻は鬼気迫る顔でそれを振りほどき、寝室へ逃れる。
そして寝室でバトル開始。さすがに分が悪く、大声で叫ぼうとするも口を手で押さえられてしまう。
しかし、妻は強かった。口を押さえていた手にガブっと嚙(か)みつき、そのまま相手の小指を食いちぎってしまう。食いちぎった小指をその場で吐き出す妻。
一方の大男も、これにはまいってしまい「ギャア」と叫び声をあげて、そのまま玄関から外へ逃亡する。
危機は去ったかに思われたが…。
平和が秒で崩れてしまった…。
通り魔とかね、不運だったね。
不運ってレベルじゃねーぞ!
どうしてこうなった…
しばし呆然とする妻。ハッと正気を取り戻しての第一声は
「もうすぐ夫が帰るわ。こんなことがあったなんて知られたくない。」
妻は急いでヨレヨレになった服を着替え、ちぎれた小指を回収。血痕をふき取り、倒れた電話台をもとの位置に戻す。
と、「リーン、リリーン。」玄関のベルがクセのある鳴り方をする。帰ってきたのは、夫。安心した表情で出迎える妻。
一方、夫の様子がおかしい。顔が真っ青で、屋内に入っても上着を脱がない。そして右手をひたすらポケットに突っ込んでいる。それを見てハッとする妻。
「まさかそんなバカげたことが!」
体調が悪いという夫は深夜になってもウーンウーンとうなされている。
一方の妻も、大男の正体は夫なのではないかと眠れぬ夜を過ごしていた。
「神さま、これは全部想像でありますように!あすになれば、何もかも、もとにもどって想像であったと思うことができますように!!」
翌日、憔悴(しょうすい)した妻の前に、それ以上に憔悴した夫が現れる。そして医者に診てもらうと言って家を出る。気になった妻はそれを尾行。
しかし、夫は病院や薬局とは別の方向へと向かう。そして電車の踏切の前で立ち止まる。
遠くから電車がやってくる。どんどん近づいてくる。
と、夫は突如倒れこみ、右手を線路の上に置いた…。
夫が犯人だったの?
真相は不明。明かされることはないよ。
んほぁー!
まとめ
以上、楳図かずお先生の凍原<ツンドラ>でした。
日常を愛し、これからもそれが続くと思っていた妻。
しかし、それは悪漢の襲撃を受けて秒で粉砕。それでも平和な日常に軌道修正を試みるも、今度は夫の様子がおかしい。「ただの想像でありますように。明日になれば元通りの日常に戻っていますように。」
そんな願いもむなしく、翌日を迎えてしまい…。
最後まで悪漢の正体は明かされずじまいになります。そして夫が最後に取った行動の理由も不明。
全部、妻の想像に過ぎなかったのかもしれませんし、夫が思うところあっての犯行なのかもしれませんし…。
「秘すれば華」
ここが本作一番の魅力なのかもしれません。
ツンドラってのは表面の氷は溶けても、地中は凍ったままなんだよ。
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