他人を思い通りにすべく呪縛をかける。だけど、実は本人こそが…。
そんな人と呪縛をテーマにした作品に興味はありませんか?
楳図かずお先生のダリの男は、まさにそんな物語。
容姿のみにくい男が、美しい女性を振り向かせるために、ある呪縛をかけます。
しかし、呪縛は思いもよらない方向へと暴走。
そして男のみにくさにも、ある秘密が…。
概要
あらすじ
「みにくすぎる!」ある男が鏡に映る自分に、そう言った。
男が自分自身をみにくいと認識するようになったのは、子供の頃の出来事がきっかけ。
近所に住むお姉さんに恋をした彼は、意を決して話しかける。
しかし、お姉さんの返事は「ふん!みにくい!」という心無いものだった。
その時、彼は自分自身のみにくい顔を見つける。それ以来、「みにくい」という言葉は彼に付きまとい、苦しませてきた。
そして、彼が自分自身に付けたあだ名が、ダリの男。
壮年になった男は、再び恋をした。相手は非常に美しい顔立ちをした女性。
男は、女性を自分の妻にしたいと思うようになった…
登場人物
ダリの男
今作の主人公。ブサメン。幼い頃にひどい振られ方をし、それがトラウマになっている。気の長さとお金を持ち合わせた人物。
梨麻
今作のヒロイン兼イケニエ。同僚と結婚し、幸せな日々を過ごすも急転直下。借金の為に、ダリの男と再婚するハメになる。なんだかんだで幸せそうに過ごすが、今回も急転直下。男運が悪い。
同僚
梨麻と結婚していた男性。ダリの男とは同じ会社の同僚。梨麻と幸せに暮らしていたが、ある日に事故死。多額の借金を彼女に背負わせてしまう。「やめとけ!やめとけ!」とか言わない。
お姉さん
子供時代の男が惚れた、近所のお姉さん。男が声をかけると「みにくい!」と一喝して走り去ってしまう。今作の元凶。
すんごい振られ方をするね。
ふん!みにくい!
物語の内容
美の歪み
ダリの男が惚れた人は梨麻という名前の、美しい女性。
ところが、彼女は男の同僚と結婚してしまい、幸せな新婚生活を送ることになる。
それでも諦められない男は、新築一戸建てを建築し、いつでも彼女を迎え入れられるよう準備をした。
そしてある日、同僚が借金を残して事故死してしまう。借金は梨麻が負うことになった。
これをチャンスと見た男は、梨麻に対し、借金を肩代わりするので自分と結婚してほしいと申し出る。
突然の申し出に、驚きとともに不安と恐怖の表情をする彼女。
しかし背に腹は代えられず、申し出を了承。
ダリの男と梨麻は、彼の新居で同居することになる。新居の内装は芸術家・ダリのような、シュールレアリスムにあふれていた。
おかしな内装に発狂寸前になる彼女だが、次第に慣れていき、鼻歌まじりで過ごすようになる。
ある日、男は二枚の絵画を彼女に見せ「この二つの絵のうち、どちらがきれいだね。」と、たずねる。梨麻は少し考えたのち、一枚を選ぶ。
それを見た男はほくそ笑む。
彼女が選んだのは、美しくないほうの絵だった…。
呪縛
ダリの男は、梨麻に呪縛をかけていた。
それは家のテーブルや本棚に至るまでの、ありとあらゆるものを、少しだけ歪ませるというもの。
彼女は歪んだ家で暮らすうちに、歪んだものを当たり前のものとして受け入れ、順応した。そして、みにくい男のことも受け入れた…。
だがしかし、男は彼女の部屋を見て愕然(がくぜん)とする。
曲がりくねった燭台に、斜め45度のテーブル。天井から垂れ下がったカーテンに、結わえ付けられた人形の生首…。
これらを見てドン引きする男。
彼女の美意識は、明らかに歪んでいた。
数日後、驚愕(きょうがく)する出来事が起こる。
部屋に閉じこもりっきりになった梨麻。
それを心配した男が、部屋を訪ねると、そこにいたのは顔の右半分と左半分がズレた梨麻だった。
「ゆがんでいる!肉体にまで影響を及ぼしたのだっ」
ダリの男は叫び声をあげる。
が、そこにいたのは人並みの容姿をした男。
この物語は、自分自身をみにくすぎると信じこんでいる男の話だった。
お姉さんの一言がトラウマになってたんだね。
そりゃトラウマにもなるよ。
感想:呪縛をかけられていた男
メインストーリーでは、ダリの男が梨麻に、みにくいものを好きになるよう呪縛をかけていく。
男は「みにくいもの(っていうか自分)を受け入れてくれれば、それでよい」くらいに考えていた。
しかし、彼女は「みにくいもの(歪んだもの)こそが至高!」という、みにくいもの原理主義者になってしまった。
そして男が「(精神が)肉体にまで影響を及ぼしたのだっ」と叫ぶものの、実は自分こそがソレ。
ダリの男は、初恋のお姉さんに「みにくい!」と一喝されてから、彼自身が「自分はみにくい」という呪縛にかかっていたというもの。
少年期から壮年期まで、ずっと呪縛にとらわれていたと思うと、なかなかかわいそうな気もする。
そうなると、嗜好(しこう)を捻じ曲げられ、肉体まで歪んでしまったことがホラーなのか。
長い間、言葉による呪縛をかけられ、自分をみにくいと信じ続けてきたことがホラー(テラー?)なのか。
なかなか考えさせられるところです。
まとめ
以上、楳図かずお先生のダリの男でした。
みにくい男が、美しい女性を自分に惚れさせるために、いろいろと策を講じるというお話。
途中までは順調そのもので、女性は少しずつ歪みを受け入れていき、ついには男に対しても心を開いてくれた。
ところがどっこい、行き過ぎてしまい、女性は自分の部屋をシュールレアリスムにリフォーム。
男はドン引きするが、事態はさらに悪化していく。
女性は嗜好だけでなく、肉体までも歪ませてしまう。
精神が肉体に影響を与えてしまった、ちゃんちゃん。
そんなオチかと思いきや、実はダリの男こそが呪縛にかかっていたというもの。
楳図先生らしい、人間がテーマのホラーテラーでした。
コメント