どんな未来であれ、それを持っているということは素晴らしい。このことを再認識してみませんか?
藤子・F・不二雄先生の未来ドロボウ(少年SF短編)は未来を持っていることの素晴らしさをテーマにした物語です。
一流校に入学して大企業に就職、そして将来は社長になる。
そんな目標を持っていた少年・学(まなぶ)は、父親の失業により進学をあきらめることになります。
そしてヤケクソになった学の目の前に不思議な老人が現れ…。
今作を読めば、明るい未来はもちろん、暗くてしょーもない未来だったとしても、
「未来がある!」
それがどんなに素晴らしいことなのかを教えてくれるでしょう。
概要
あらすじ
主人公・学は、女友達から一緒に遊ばないかと誘われるも断ってしまう。いわく
「たくさん勉強して一流大学へ進んで社長とかになる。人生の成功者になりたいんだ。」
次いで野球仲間から試合に誘われるが、これも断ってしまう。いわく
「ぼくだってがまんしているんだ。今がいちばんだいじなときなんだ!!」
そして帰宅するや、急いで机に向かってお勉強開始。
その夜、親に呼び出されてリビングに行ってみると、何やら父親が神妙な顔つきでタバコをふかしまくっている。
そして開口一番、高校進学をあきらめてくれとのご達し。なんでも父親の会社が倒産してしまったとか。
将来の目標を突如失い、目の前真っ暗になる学。父親が
「学校がすべてじゃないよ。わしだって夜間中学しかでてないんだ。」
と、フォローをしてくれるも学の心にはひびかない。そのまま外へ飛び出してしまう。
「ぼくの人生はもうおしまいだ…。」
そう言って夜道を歩いていると、近所に住む資産家の庭に間違えて入ってしまう。そして見つかる。
資産家は白ひげをたくわえた恰幅(かっぷく)のいい老人。
「この家にお客さんが来るのは珍しい。一緒にお茶でも飲もう。」と歓談。
そして…。
翌朝、陰鬱(いんうつ)だった昨夜とは打って変わって元気な学。学校にも上機嫌で飛び出していく。
それから間もなく、学の自宅を資産家の老人が訪ねてくる。いわく
「おかあさん、ぼくだよ。たすけて!」
一体、何が起きたのか?
おかあさん、ぼくだよ!
了解、射殺します。
!!
登場人物
学(まなぶ)
主人公の中学生。ぱっと見はのび太だが、勉強もスポーツもできる優等生。しかし、老人の詐欺まがいな交渉にひっかかり、未来を奪われてしまう。お年寄りボディになっても、やたらアグレッシブなのは若さの証拠か…。走り寄ってくる犬に蹴りをかます。
老人
元・大脳生理学者。発明のいくつかが、製薬会社に買われ、富豪にジョブチェンジ。しかし、晩年に至り、財産や地位のために若さを犠牲にしたことを後悔。学に、彼の未来と、自分の財産の交換を申し出る。サングラスがトレードマーク。
父親
学の父親。序盤、働いていた会社が倒産。本人なりに落ち込んでいたが、元気な息子(本当は老人)を見て、再び立ち上がる。そして見事に再就職先を見つけ、借金返済のめども付ける。何気にこれがハッピーエンドへつながることになる。
物語の内容
未来を取るか、財産を取るか…
昨晩、資産家のおやしきでお茶を飲みながら歓談していた二人。
資産家の老人は元・学者で、開発したものが企業に買い取られ、巨万の富を手に入れたのだという。学は無邪気に「成功してよかったですね。」と返事するが、老人の表情はさえない。そして
「学問一筋の人生で、地位も財産も手に入れた。しかし気が付かないうちに、人生の春も冬も通り過ぎていた。わしは何か大切なものを落としてしまった気がする。豊かな未来が残されている、きみがうらやましいよ。」
それを聞いて、半ば怒気を発する学。
「高校もいけない未来なんてたかが知れている。それだけの財産があればなんだってできるでしょう。ぼくはおじさんのことがうらやましい。」
と、老人の目が怪しく輝く。
「かりに、わしの財産と、きみの未来をとりかえられるとしたら、とりかえるかね?」
あからさまにヤバい質問だが、学は
「もっちろん!」
と、二つ返事。喜んだ老人は機械を使って二人の記憶を交換すると言い出す。
ようやく事の大きさを認識する学。
しかし、時すでに遅く、記憶交換を実施されてしまう…。
老人が学をハメてるようにも見えるね。
若い男の子が好きなのかも…。
ウホッ!
未来>財産
老人の身となった学は、自分の身体を取り戻すべく奮闘(ふんとう)するもすべて失敗。おやしきの一室に閉じ込められてしまう。
執事が提供する食事には手を付けず、世界旅行にも、巨大スクリーンを使った映写会にも興味を持たない。只々ひたすらにふさぎ込んでしまう。
一方、学の身体をゲットした老人は元気そのもの。
家族との食事をバクバクむしゃむしゃとたいらげ、友人との野球試合でも大ハッスル。
そして老人は丘で寝っ転がりながら夕焼けを見ていると、不意に涙を流す。
「しあわせすぎる…。」
その夜、老人はおやしきへ行き、執事と対面する。
「若いということは想像以上にすばらしい。すばらしすぎるんだ!」
そして老人は一つの決断を下す…。
資産家はお年寄りの時には老人然としているけど、若くなると急に元気になるよ。
一方の学は若い時でも、お年寄りになってもアグレッシブだね。
若さってのは情熱的な精神を言うのかもね。
感想:少年SF短編の代表作◎
将来の目標に向けてがむしゃらになっていた少学。しかしその目標が閉ざされてしまい、自分の未来に絶望してしまいます。
そこで現れた資産家の老人が「わしの財産と、きみの未来をとりかえられるとしたら?」という提案を安易に受け入れてしまう学。
財産を手に入れるも、未来を失ってしまった学。ここでようやく未来の大切さを痛感します。
一方、未来を手に入れた老人はハッスル&ハッスル。しかし不意に
「若いというのは、すばらしすぎる」
などと言って、執事(っていうか老人になった学)のもとを訪ねます。
二人ともが自分の未来に絶望するも、入れ変わったことで
「あれ、未来ってお金じゃ買えないくらいに大切なものなんじゃね?」
と、これまた二人ともが得心するというのが本作のキモ。
序盤では切羽詰まった顔をしていた老人が、終盤ではどこか穏やかな顔になっているのが印象的でしたね。
まとめ
以上、藤子・F・不二雄先生の未来ドロボウ(少年SF短編)でした。
主人公・学は一流校進学と社長になるという目標を持っていが、父親の会社が倒産。高校進学を諦めざるを得なくなる。
家を飛び出した学は資産家の老人に出会い、一緒にティータイム。
そして不思議な交渉を持ちかけられて…。
今作は少年と老人、二人の身体が入れ替わり、二人ともが未来と財産の大切さを改めて認識するというもの。
未来(あるいは若さ)の価値について考えさせられる良作でした。
浜慎二先生も、財産or未来をテーマの作品を描いているよ。
あっちはバッドエンドだけどね。
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