戦争で生命を落とす意味はあるのか。考えたことはありませんか?
松本零士先生の鉄の竜騎兵(ザ・コクピットシリーズ)では、生きようとすれば生きれた状況で、あえて死に場所へ歩みを進めていった兵隊たちが描かれています。
ザ・コクピットシリーズでは、たくさんの人々の生き死にが描かれていますが、今作では戦争で生命を落とす意味の一つを教えてくれています。
竜騎兵ってかっこいい名前だね。
銃装騎兵のことだよ。
タイトルは銃武装した自動車騎兵のことを指しているんだ。
概要
あらすじ
舞台は太平洋戦争末期のレイテ島ゼラバンカ平原。
日本軍連隊司令部の元へ、南方のカラケチル飛行場から伝令兵・宇都宮がやってくる。
「飛行場が、米軍の攻撃であやうくなっている」
しかし、司令部の回答は全軍を300km後退させるという転進命令。
飛行場は取り残されるハメになる。
それを聞いた宇都宮は「撤退命令をつたえるには、もう一度伝令をださにゃならん。」と言って、飛行場へ戻ることを決心。
愛機のバイク・陸王にまたがり、仲間たちが待つ、カラケチル飛行場を目指す。
登場人物
宇都宮
主人公1。階級は一等兵。南方のカラケチル飛行場に駐屯していたが、米軍からの攻撃を受け、連隊司令部へ援軍要請にやってきた。
古代
主人公2。階級は一等兵。やや粗野な話し方をするおじさん。連隊司令部で兵隊をやっていたが、そこで宇都宮と出会う。
物語の内容
サイドカーは、おれの分身
日が沈み、カラケチル飛行場へ出発する宇都宮。
と、中年の兵隊が声をかけてくる。
「サイドカーにゃ、横に乗って機関銃撃つやつがいるだろうが」
そう言って、一緒に来てくれるという。彼の名前は古代。
こうして二人はカラケチル飛行場へ出発。宇都宮が運転をし、古代は側車に乗り込む。
夜中ということもあり、至って順調。古代は酒をラッパ飲みしている。
しかし、夜が明けると一変。
敵戦闘機からの機銃掃射を喰らう。
何とかやり過ごすものの、宇都宮が被弾。背中を撃ち抜かれてしまう。
飛行場へ向けて再出発するものの、顔色が悪い宇都宮。彼いわく
「こいつ(サイドカー)は俺の分身なんだ…。こいつのエンジンは俺の心臓なんだ。おれが死ぬときは、こいつも死ぬ…。」
さらに続ける。
「ムダでもいい…約束は約束だ。意地でもみんなの所へ行く。」
そして飛行場まで20分の距離まで到着。二人は日が暮れるまでの小休憩をとることにした。
飛行場の決戦
陽が沈み、そろそろ出発…。
というタイミングで、米軍パトロール隊と遭遇。サブマシンガンで武装した米軍バイクが、こちらへ突っ込んでくる。
古代は寝ている宇都宮を側車に乗せ、自身がハンドルを握りエンジン始動。米軍人の走者を軽快にかわす。実は古代、元レーサーなのだという。
双方、銃の打ち合いになるも、すれ違いざまに側車で体当たりをかます。米軍人はバイクからふっとび、勝負あり。
と、古代は側車を揺らして、宇都宮を強制降車させる。
「ここから先はわし一人で行く…、わるく思うな!!」
古代の行く手では、米軍が照明弾を打ち上げ、待ち構えている。
「おまえはまだ若い…、生きて帰れ!」
そう言い残して、夜空に照明弾が降り注ぐ中を突っ込んでいく古代。
「おれの…サイドカー…」
背中から大量の血を流す宇都宮は、そうつぶやき、息を引き取る。
そして、バイクのエンジンが止まった。
石にかじりついてでも生き残るのか
いっそ華々しく散るのか
どちらが正しいのだろう?
作中のバイク・陸王について
陸王とは…
戦前戦後に国内生産された、ハーレーダビッドソンのライセンス品が陸王。
作中では宇都宮の愛車としてサイドカー・バージョンが登場します。
サイドカー・バージョンは排気量1200cc超を誇り、悪路でも走破できるよう工夫がなされています。
主に陸軍機として使用され、日中戦争やノモンハン事件でも活躍した傑作バイクです。
終戦後も陸王の生産は続けられるのですが、中小型車ブームについていけず生産終了。
生産企業も倒産してしまい、歴史に幕を下ろします。
作中での役割
宇都宮と陸王はリンクしています。
序盤では100kmを走破したうえ、爆風に吹き飛ばされてヘロヘロになった宇都宮。一方の陸王もエンジンが焼き付き、爆風のためか穴ぼこだらけ。
しかし宇都宮が元気になると、陸王も修理されて復活!
彼が強い意志を持って帰路につくと、愛車も未整備の悪路をグングン突き進んでいきます。
そして終盤、宇都宮が息絶えると、同時に陸王もエンジンが停止。
最後に「死ななくてもよかった男たちが、なぜ死んだのか」と、陸王が涙を流して終幕します。
ハーレーダビッドソンって、このころにはあったんだ。
製薬会社の三共がライセンス生産していたんだ。
商品名がかっこいいね。
アニメ化されています(ザ・コクピット)
本作は1993年にザ・コクピットのタイトルでアニメ化されています。
製作はマッドハウス・ジャコム・ビジュアル80。
監督は高橋良輔さん。声優は永井一郎さん・山口勝平さん・キートン山田さんという豪華なメンツが務めています。
オムニバス形式で、他には成層圏気流と音速雷撃隊が収録されています。
感想
今作を読んで思ったのは「死に急ぎすぎ~」というもの。
同じ軍人でもラインダース大尉(成層圏気流)は、「犬死はしたくない」と言って、状況不利になるや撤退してしまうのとは大違い。
まあ、そのせいで彼は「卑怯者」のレッテルを張られますが…。
そんな彼とは対照的に、今作の登場人物たちは、明らかに死に場所を求めているように見えます。
宇都宮は「死んでもいい…、みんなの所へ帰る。」と発言して、陥落したであろう飛行場へ向かう。
古代も「おれにとっちゃ、飛行場はゴールなんだ…。わしの最後のレースだよ…。」と言い残して、敵陣に突っ込んでいきます。
主役級以外でも、日本軍将校が敵陣地に野戦砲を打ち込み、部下を巻き込んで死亡しています。
これらの行動は、彼らが死に場所を求めていたという意志を示したものでしょう。
最後のナレーションで「死ななくてもよかった男たちが、なぜ死んだのか」と問われています。
これは「戦争がなければ生きていられたのに…」という意味か?
それとも「生きようとすれば生きれたのに、なぜ死に場所を求めるような行動を取ったのか?」という意味か…?
含蓄のある言葉ですね。
どうせ死ぬんなら、かっこよく死にたいじゃん?
死に急ぎすぎーっ!
まとめ
以上、松本零士先生の鉄の竜騎兵でした。
平時なら自ら死に場所を求めるなんてことはないでしょう。
戦時でも「絶対に生き延びてみせる!」という行動を取れたでしょう(多分)。
それなのに自分から死地を求めてしまう。戦場の異常性がうかがえますね。
タイトルがね、かっこいいよね。
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